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飯沢耕太郎と写真集を読むvol.25「星野道夫と自然写真家たち」講座レポ

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 9月22日(秋分の日)、連続講座「飯沢耕太郎と写真集を読む」が開催されました。今回のテーマは、自然写真家の星野道夫さん。今年は、星野さんが不慮の事故で亡くなられてから20年目の節目の年。回顧展が全国を巡回中です。写真集を繰りながら、彼の仕事を振り返っていきます。

 戦後、山岳写真、生態写真で記念碑的な作品を残した田淵行男さんが、日本の自然写真の礎を築き、岩合徳光さん、田中光常さん、佐々木崑さんが第二世代で、第三世代となるのが、星野道夫さんや岩合光昭さん、今森光彦さん、水越武さん、宮崎学さんたちです。1970〜80年代に、彼らの活躍で。自然写真の隆盛期を迎えます。

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 星野道夫さんは、1952年千葉県に生まれ、慶應義塾高校に入学。17歳の時に40日間アメリカをめぐる一人旅をしています。慶應義塾大学に進学し、19歳の時には、古書店で見つけたアラスカのシシュマレフ村の写真に惹かれて村長に手紙を出し、一夏のあいだシシュマレフ村で過ごすという体験をしています。これが星野さんとアラスカとの出会いになりました。26歳でアラスカ大学へ入学し、アラスカでの生活が始まります。

 1981年に雑誌『アニマ』で写真家デビューし、1985年に初の写真集『グリズリー アラスカの王者』、1988年には『ムース』を刊行し、写真家としての歩みを順調に進めていきました。
 星野さんの自然写真は引きの画面に特徴がある、と飯沢さんは言います。広大なアラスカのパノラマ風景の隅に、動物がひっそりと佇む構図も多い。大移動するムースの群れが虫のように小さく俯瞰で撮影されている写真は、こちらの遠近感が麻痺してしまうほど。動物がいる環境全体を画面に収めることで、より大きな生命のサイクルを感じさせる写真になっています。

 当時、近代化によるエスキモー社会の崩壊を目の当たりにし、人間の営みを自然と引き離して考えることができなくなった星野さんは、写真と文章でアラスカの現状を記録し始めます。それが、『週刊朝日』の連載をまとめた1991年刊行の『アラスカ 風のような物語』。さらに、目に見える世界のだけでなく、アラスカ先住民族の精神世界に踏み込み、ワタリガラスの神話を訪ねる旅を始めます。星野さんの関心は、動物写真から、ドキュメンタリーや文化人類学、神話学の領域へと広がっていきました。

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 ワタリガラスの神話の源流であるシベリアを訪れ、民族の大移動の軌跡を再構築するという大きな仕事に手をつけ始めていた1996年、、取材先のテントでクマに襲われるという不慮の事故が星野さんを襲います。クマから始まった星野さんの写真家人生が、クマによって終わりを告げる…運命であった思わざるをえません。しかし、成し遂げようとしていた仕事のスケールの大きさを考えると、未完に終わってしまったのがとても悔しく残念でならない、と飯沢さんは語ります。

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 単なる動物写真家という枠組みを超え、人間や動物の営みをより大きな「自然」に抱かれた小宇宙として位置付けようとしていた星野さんのお仕事を、めぐたまにある写真集を通して、みなさんも振り返ってみてはいかがでしょうか。現在関西を巡回中の回顧展は、横浜に戻ってきます。こちらもぜひ足を運ばれてみてください。展覧会の図録には、飯沢さんが文章を寄せています。
http://www.asahi.com/event/hoshino20/

 次回の講座は、現代写真のバイブルと言っても過言ではないロバート・フランクの“THE AMERICANS”を深く読み解いていきます。ゲストは日本有数の写真集コレクターでもある写真史家の金子隆一さん。『アメリカ人』の各ヴァージョンもお持ちいただく予定です。超豪華な内容。ぜひ足をお運びください。

「飯沢耕太郎と写真集を読む vol.26」ロバート・フランク『アメリカ人』を全バージョンで読む
10月16日(日)
10:00~11:30
2500円(三年番茶付き) 学生割引 1500円(三年番茶付き)
ゲスト:金子隆一(写真史家)
場所 めぐたま
* お申し込み megutamatokyo@gmail.com
*たまにメールが届かないことがあります。3日以内に返信がない場合、お手数ですが再度メールくださいませ。
*前日、当日のキャンセルは準備の都合がありますので、キャンセル料をいただきます。
*飯沢さんと一緒にランチを食べる方は事前にお申し込みいただけると嬉しいです。(休日ランチ1500円)

(文・写真/ふげん社 関根 史)
ふげん社
http://fugensha.jp

飯沢耕太郎と写真集を読むvol.24 「トークと鑑賞で一日キャメロンDAY」講座レポ

飯沢耕太郎と写真集を読むvol.24 「トークと鑑賞で一日キャメロンDAY」講座レポ

 写真評論家の飯沢耕太郎さんのレクチャーにより写真の味わい方を学ぶことのできる大人気連続講座『写真集を読む』第24回が、7月17日(日)に開催されました。
 
今回の「写真集を読む」は、特別編!三菱一号館美術館の初の写真展であり、生誕200周年の国際巡回展で日本初の回顧展である『ジュリア・マーガレット・キャメロン展』の開催に併せ、「トークと鑑賞で一日キャメロンDAY」でした。飯沢さんの解説を聞き、おかどさんの美味しいごはんでお腹を満たしたあとは、実際に美術館に足を運んで作品を鑑賞する(ここでも飯沢さんの生音声ガイド付き!)という豪華なイベント。
 
 毎回講座のレポートを担当している館野さんがお休みでしたので、築地「ふげん社」の関根がピンチヒッターでレポートさせていただきます。しばらくのあいだお付き合いくださいませ。

ふげん社
http://fugensha.jp

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 みなさんは、「ジュリア・マーガレット・キャメロン」という写真家をご存知でしょうか?写真にお詳しい方でも、ピンとくる方は少ない気がします。わずか十余年あまりの短い活動にもかかわらず、写真表現に新たな地平を開いたという功績に比して、知名度が低く写真史に埋もれがちな存在です。

 キャメロン女史は、1815年にインドはカルカッタで、名門キャメロン家の三女として生まれました。48歳のとき、娘夫婦よりカメラと暗室道具一式を贈られ、彼女が長年抱いていた「美への憧れ」が、カメラを手にしたことで一気に開花します。キャメロンは身の回りの人物をモデルにし、幻想的な主題で肖像作品を生み出すことに情熱を傾けていきます。

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 後世になって高い評価を受ける所以となった、彼女の作品の特徴は大きく三つあります。
 まず一つが、写真に絵画的効果を適用した点です。キャメロンの作品は、当時の画壇であるラファエル前派の影響が色濃く見られます。これは、のちの19c末〜20c前半におこった、写真を芸術そしてみなし絵画的な表現を目指す「ピクトリアリズム」という写真表現運動の先駆けであったと言えます。
 
 モデルに、聖書の登場人物や「アーサー王」などの歴史的人物像を当てはめ、神話的でロマンチックな世界観を創出するキャメロン作品は、現代のコスプレと通じるものがある…と飯沢さん。若い女子はキャメロンに共感できるのでは?

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 二つめは、失敗をインスピレーションの種として新しい写真表現の可能性を常に探っていったことです。
 彼女の写真を見ると、ピンボケの写真や、指紋がついていたり、フィルムが破れていたり、一見「ミス」とみなされてしまう写真が多いように感じられます。しかし、彼女はミスをミスで終わらせず、それを多様な表現のひとつとして昇華しようとするたくましさがありました。
 
 キャメロンが使っていたカメラは、当時最先端の写真技術である湿板写真。極めてシャープな描写が可能になっていただけに、職業写真家たちの表現から大きく逸脱したキャメロン女史の作品は、非難が殺到したそうです。
 
 写真を詩集の挿絵として編集したり、写真の販売をしたり、アーティストインレジデンスの試みをしたりするなど、常に新しいことを追い求めていたキャメロン。大きなカメラを使いこなし、現代では想像もつかないほど途方もない手間をかけて写真を現像、プリントして、世間の批判を物ともせず独自の写真表現を切り開いていった様子を見るに、闊達でパワフルな女性像が眼に浮かびます。

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 最後は、被写体を見出し、その魅力を引き出すことに長けていた点です。
 彼女は、ヴィクトリア朝時代の著名な文人や芸術家、科学者をモデルとして登用するほか、親戚や小間使いなど身の回りの女性たちをモデルとして用います。頻繁にメインの役柄で作品に登場する、お気に入りのモデルが何人かおり、三菱一号館美術館の展示では、そのモデルたちにフォーカスをあてた解説がなされています。作品のなかの蠱惑的な女性たちは、キャメロンの鑑識眼が確かなものであったと感じさせます。

 彼女の写真には、「被写体をありのままに捉える」という彼女の信条を表す「フロム・ライフ」という文字がサインと共に添えられていることが多いです。写真に絵画的演出をほどこしていたキャメロン女史ですが、彼女が作り上げているものは、あくまでもありのままを写す「写真」であり、被写体のポテンシャルを生かして、イマジネーションの世界と現実を見事に融合させていたといえます。

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 飯沢さんのお話のあとは、丸の内にある三菱一号館美術館で開催中の「Life―写真に生命を吹き込んだ女性 ジュリア・マーガレット・キャメロン展」へ。飯沢さんの講義を聞いた後は、作品がより生き生きとして見える気がします。

会期は9月19日までです。
詳しくは下記に。
http://mimt.jp/cameron/
  

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記事を読んで興味を持たれた方は、『ジュリア・マーガレット・キャメロン展』に、ぜひ足を運んでみてください。貴重なヴィンテージプリントが一堂に会する大規模回顧展は、もしかしたら最初で最後かもしれません。モデルたちの表情、仕草、そしてプリントに残るキズや指紋などから200年前に想いを馳せて、写真に情熱を傾けエネルギッシュに生きた女性の息遣いを感じてみませんか。

(文/写真  関根 史)
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梅佳代さんと飯沢耕太郎さんのキャメロンを巡るトークの企画もあります。

日時  :8月2日 (火)時間19:00~20:30(予定)+質疑応答(開場18:30)
会場  :青山ブックセンター本店 大教室
参加費:1,944円(税込)

詳しくは下記に。
http://mimt.jp/blog/museum/?p=4566

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次回のご案内(8月はお休みです)

「飯沢耕太郎と写真集を読む vol.25」星野道夫と自然写真家たち

星野道夫さんが不慮の事故で亡くなってから、早いもので20年経ちました。8月〜10月には「没後20年特別展 星野道夫の旅」が松屋銀座を皮切りに全国各地で開催されます。1980〜90年代に発表された星野さんの写真は、「動物写真」という枠組みを超えて、国際的な広がりを持つ画期的な仕事でした。今回は星野さんの写真集を中心にして、同時代の自然写真家たちの多面的な活動をふり返ります。ぜひ足をお運びください。(飯沢耕太郎)

9月22日(祭・木)

10:00~11:30

2500円(三年番茶付き) 学生割引 1500円(三年番茶付き)

定員 15名

場所 めぐたま

* お申し込み megutamatokyo@gmail.com

*たまにメールが届かないことがあります。3日以内に返信がない場合、お手数ですが再度メールくださいませ。

*前日、当日のキャンセルは準備の都合がありますので、キャンセル料をいただきます。

「飯沢耕太郎と写真集を読むvol.23 ウォーカー・エヴァンズ『アメリカン・フォトグラフス』を読む」講座レポ

 

6月19日の日曜日、連続講座の「飯沢耕太郎と写真集を読む」が開催されました。

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「写真集食堂 めぐたま」はその名の通り、写真集と美味しいごはんを味わうことのできる場所です。

5000冊もの写真集がずらりと並ぶ店内。

めぐたまに訪れたことのある人なら、あまりの写真集の多さに「どれを読めばいいのだろう?」と悩んだこともあるのではないでしょうか。

また「行ってみたいけど写真に詳しくないし……」と思っている方もこのブログを読んでくださっているかもしれませんね。

もちろん自由に手に取り、自由に読んでもらいたいのですが、写真集は写真家のことや時代背景を知ることで、ぐっと味わい深いものになることもあります。この連続講座は、そんな「写真集の味わい方」を本の持ち主であり、写真評論家の飯沢さんがじっくりとお話をするイベントです。
(これまでの講座の様子はこちら

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23回目となる今回は、ウォーカー・エヴァンズの写真集『アメリカン・フォトグラフス』を取りあげました。

『アメリカン・フォトグラフス』は“1930年代のアメリカ”を写した一冊であり、世界ではじめて、言葉に頼ることなく“写真だけ”で物語を紡いだ一冊と言われています。

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1938年、まだニューヨーク近代美術館に写真部門がなかった頃、写真を新しい芸術のジャンルとして育てようと、キュレーターたちが初の個展に選んだ写真家がウォーカー・エヴァンズでした。

写真集『アメリカン・フォトグラフス』は同名の展覧会のカタログとして出されたものですが、展示内容とは写真の点数もセレクトも異なり、写真をみせる順番も全く違ったものに仕上がっています。

複数の作品が1つの空間に並ぶ展覧会と、ページを1枚1枚めくりながら作品と向き合う写真集。

展覧会と写真集では写真との出会い方がそれぞれ異なるため、本作はその違いを意識的に取り扱った写真集としても、のちの写真の歴史に大きな影響を与えました。

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ウォーカー・エヴァンズが捉えた1930年代のアメリカは、1929年のウォール街での株価大暴落に始まった不況が続く、とても暗い時代でした。

そんな時代を生きる人々や建物、そして都市をウォーカー・エヴァンズは大判カメラから小型カメラまで、さまざまなカメラを使い分け、まるで眼を取り替えるようにして撮り方を変えていくことで、写真家として、深いメッセージを織りこみながらも、1つの時代を客観的に写しています。写真からは貧しくともひたむきに生きる人々への敬意と、軍人や資本家といった支配層への嫌悪感が感じられます。

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飯沢さんは、『アメリカン・フォトグラフス』は写真を通じて「何か」を語り、「写真とは何か」を語ったはじめての写真集であり、はじめてにしてピークとも言える一冊と言っていました。

どれを手に取るか迷った時は、『アメリカン・フォトグラフス』を読んでみてはいかがでしょうか。

 

次回は19世紀のイギリスを代表する女性写真家、ジュリア・マーガレット・キャメロンがテーマです。めぐたまで写真集とランチを味わった後に、三菱一号館美術館で展覧会を鑑賞するというスペシャル企画になっています。

1人の写真家の写真集と展覧会が同時に楽しむことのできるこの機会、ぜひご参加ください。

 

【次回講座のごあんない】

飯沢耕太郎と写真集を読む 特別編
「トークと鑑賞で一日キャメロンDAY」

7月17日(日)
10時〜14時30分頃

参加費:4000円
レクチャーとお昼ごはんとキャメロン展(三菱一号館美術館)見学(チケットつき)

10時から11時30分……トーク(めぐたま)
11時30分から12時30分……ご飯(めぐたま)
12時30分から13時30分……移動(恵比寿〜東京)
13時30分から……三菱一号館美術館「ジュリア・マーガレット・キャメロン展」見学(東京・丸の内)

* お申し込み megutamatokyo@gmail.com

*見学後、ご希望方は三菱一号館1階のカフェ1894で飯沢さんとお茶しましょう(別料金です)。

*恵比寿〜東京駅の交通費は各自ご負担ください。

*たまにメールが届かないことがあります。3日以内に返信がない場合、お手数ですが再度メールくださいませ。

*前日、当日のキャンセルは準備の都合がありますので、キャンセル料をいただきます。

 

 

写真/文 館野帆乃花

 

「飯沢耕太郎と写真集を読むvol.22 ヌード写真集を読む」講座レポ

月に一度の連続講座「飯沢耕太郎と写真集を読む」。

この講座では、あるときは写真家を取り上げ、またあるときは1つの時代や1つのテーマにスポットをあてて、写真集を味わってきました。
(これまでの講座の様子はこちら

5月15日、22回目となる今回は「ヌード写真集」がテーマです。

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飯沢さんはヌードと写真について考えるときのキーワードは「ヌード」と「ネイキッド」の2つだとします。

美しいフォルム、物体としての「ヌード」
隠されていた存在が露わになる、出来事としての「ネイキッド」

今回は飯沢さんが選んだ古今東西のヌード写真集を、この2つの視点からみていくことで人の裸を撮ること、そして見ることについて考えていきます。

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1冊目に紹介したのは『明治裸体写真帖』(1970年)です。星野長一氏という江戸から明治のヌード写真を集めたコレクターのコレクションからなる一冊で、これらの写真は当時、外国人の旅行土産としてアンダーグラウンドで出回っていたと言われています。

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続いて飯沢さんが紹介したのが日本の明治時代と同時期にあたる、フランスを中心としたベル・エポック(良き時代)のヌード写真を集めた『Velvet Eden』(1979年)です。

『明治裸体写真帖』に収められた日本の初期のヌード写真はポーズや表情がぎこちなく、どこか痛々しいものも感じてしまうのに対して、『Velvet Eden』は華やかで解放的であり、芸術作品としての成熟度が高い写真ばかり。同じ時代でもまったく異なる「ヌード写真」があることが分かります。

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次に見ていったのはアーヴィング・ペンの『Dancer』(2001年)とロバート・メイプルソープの『Black Book』(1986年)です。どちらも、肉であり物体である裸体の「モノ」としての存在感とともに、写真家の被写体に向けられた執拗なまなざしを感じます。

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そして「モノ」としてのヌードではなく、自分と自分の周りの出来事として裸体(=ネイキッド)を写したのがナン・ゴールデンの『the Ballad of sexual Dependency(性的依存のバラッド)』(1986年)です。愛する人のカラダ、恋人に暴力をふるわれて負った傷など、切実さと痛みが伝わるような「コト」としての写真集であり、日本の写真家にも影響を与えた一冊です。

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日本のヌード写真集から飯沢さんが選んだのは、変わりゆく東京の街とヌード写真を同時に並べた荒木経惟『TOKYO NUDE』(1989年)と宮沢りえのヌード写真集として話題となった篠山紀信『Santa Fe』(1991年)の2冊でした。
美しさや若さの陰にある消え行く存在の儚さを感じさせるような「ヌード」であり「ネイキッド」でもあるカラダが写されています。

ほかにも講座ではポール・アウターブリッジ Jr.『Photographien』(1981年)やオランダのクリエイター集団Kesselskramerの写真集『Useful Photography#8』(2008年)も取りあげました。紹介できなかった写真集もあったので、続編もあるかもしれません。

今回は時代や国を超えて「ヌード写真集」というテーマでたくさんの写真集を見ていきましたが、次回は打って変わって、ウォーカー・エヴァンズの『アメリカン・フォトグラフス』(1938年)という1冊の写真集を1時間半じっくりと時間をかけて読み解いていきます。

【次回講座のごあんない】

飯沢耕太郎と写真集を読むvol.23
「ウォーカー・エヴァンズ『アメリカン・フォトグラフス』を読む」

6月19日(日)

10:00~11:30

2500円(三年番茶付き) 学生割引 1500円(三年番茶付き)

定員 15名

場所 めぐたま

* お申し込み megutamatokyo@gmail.com

*たまにメールが届かないことがあります。3日以内に返信がない場合、お手数ですが再度メールくださいませ。

*前日、当日のキャンセルは準備の都合がありますので、キャンセル料をいただきます。

*飯沢さんと一緒にランチを食べる方は事前にお申し込みいただけると嬉しいです。(休日ランチ1500円)

 

写真/文 館野帆乃花

 

 

「飯沢耕太郎と写真集を読むvol.21 肖像写真集を読む/ナダールとザンダーを中心に」講座レポ

 

「なぜ人は人を撮り、写真に残そうとするのか」

4月16日に開かれた、月に1度の連続講座「飯沢耕太郎と写真集を読む」は、そんな問いを出発点に“肖像写真”について見ていきました。
(これまでの講座の様子はこちら

めぐたまにずらりと並ぶ5000冊以上の写真集から、本の持ち主、飯沢さんが選んだのは19世紀にポートレート様式を確立したナダールと、20世紀にその時代に生きる人々の姿を残そうとしたアウグスト・ザンダーの2人の写真集です。

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写真が発明される以前は画家に自分の肖像画を描いてもらうことだけが、自分の姿を残す手段でした。お金も時間もかかる肖像画を描かせることができたのは王族や貴族など特権階級の人々に限られ、肖像画は権威の象徴であったと言えます。

19世紀になり、写真の登場によって新しい肖像画のスタイルが確立します。
飯沢さんはこの新しいスタイルを「牛丼」に例え、写真は肖像画に比べて「安い・早い・うまい(正確な描写)」と説明します。19世紀の産業革命とともに、写真館が次々と登場し、肖像写真は瞬く間に中流階級の人々の間で広まっていきました。

安価で手軽な肖像写真が普及すると、人々は写真に写る自分の姿に個性を求めるようになります。19世紀、古典的な肖像写真の様式を確立したのがフランスの写真家ナダールです。元々、風刺画家だったナダールは写真の時代を感じ、1854年にスタジオを開設。顔に表れる内面性やその人のもつ雰囲気をライティングやポーズによって引き出し、演出する方法を模索しました。

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ナダールの確立した様式は、肖像画のスタイルを踏襲するものであり、20世紀になると肖像写真に限らず、絵画的な写真を否定する動きが見られるようになります。

そのきっかけとなったのが第一次世界大戦であり、写真はありのままの現実を写すべきではないのかという問いが肖像写真にも向けられるようになりました。

その問いを問い続け、「20世紀の人間たち」を余すところなく写真に残そうとしたのがドイツの写真家、アウグスト・ザンダーです。

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彼は20世紀に生きる人々を職業や社会的な立場によって分類し、あらゆる立場の人々を対等に写真に収めようとします。ザンダーの写真はその人の身なりやその人のいる場所、表情、しぐさを捉え、1人の人生が1枚の写真によって語られています。

そしてその写真は職業や社会的な立場で分類されることによって、固有の物語ではなくなり、人間の有り様として私たちに「人間とは何か?」と語りかけてきます。

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ナダールとザンダー、19世紀と20世紀を代表する2人の写真家の肖像写真から、自分の姿を残したいという人々の変わらない欲求と、時代によって変化し広がっていく肖像写真の可能性を見ていきました。

次回のテーマは「ヌード写真」です。こちらも写真を通して人間の姿や欲求、なぜ写真を撮るのかを一緒に考えていく時間になりそうです。

次回もたくさんの方々のご参加、お待ちしております!

【次回講座のごあんない】

飯沢耕太郎と写真集を読むvol.22 「ヌード写真集を読む」

5月15日(日)

10:00~11:30

2500円(三年番茶付き) 学生割引 1500円(三年番茶付き)

定員 15名

場所 めぐたま

* お申し込み megutamatokyo@gmail.com

*たまにメールが届かないことがあります。3日以内に返信がない場合、お手数ですが再度メールくださいませ。

*前日、当日のキャンセルは準備の都合がありますので、キャンセル料をいただきます。

*飯沢さんと一緒にランチを食べる方は事前にお申し込みいただけると嬉しいです。(休日ランチ1500円)

 

写真/文 館野帆乃花