1月26日に、2020年最初の「飯沢耕太郎と写真集を読む」を開催しました。この日のテーマは、Bunkamuraザ・ミュージアムで「ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」展が開催されている、写真家・ソール・ライターについて。
展覧会のコーディネートをした佐藤正子さん(コンタクト)と、ドキュメンタリー映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』(監督・撮影:トーマス・リーチ)の買い付け、配給をした大野留美さん(テレビマンユニオン)のおふたりをゲストにお迎えしました。
めぐたまのイベントでソール・ライターを取り上げるのは2回目。前回は2年前の2017年にBunkamuraザ・ミュージアムでソール・ライターの国内初個展が開催された際に、佐藤正子さんとキュレーターのポリーヌ・ヴェルマールさん(ニューヨーク国際写真センター)にお話を伺いました。
講座レポート
連続講座「飯沢耕太郎と写真集を読む」 一日『ソール・ライター』DAY
(2017年4月29日開催)
ソール・ライターは、写真表現においてモノクロームが主流であった1950年代頃から、自身が暮らしているニューヨークのダウンタウン、イーストビレッジを撮り続けます。2006年にドイツの出版社シュタイデルから刊行された1冊の写真集『Early Color』によって、その大胆な構図と豊かな色彩感覚で多くの人を魅了し、一躍脚光を浴びた写真家です。
2013年には、ソール・ライターの日常と人生哲学を映した映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』がニューヨークで初上映されます。大野留美さんは、日本においてソール・ライターを知る人がほとんどいない状況のなか、日本上映を推し進めました。2015年に日本での上映が実現し、上映期間の延長が決まるほど、映画はヒットします。
大野さんが、日本でソール・ライター作品を見られる機会があればと思っていた頃、佐藤正子さんは、ソール・ライター財団から日本での展覧会開催の提案をうけ、開催に向けて動き出します。
それが、2年前の2017年にBunkamuraザ・ギャラリーで開催された「ニューヨークが生んだ伝説 写真家ソール・ライター」展でした。写真展では異例の8万5千人を超える観客動員で大ヒットとなります。
おふたりの尽力によって日本でも有名になったソール・ライター。前回のBunkamuraザ・ミュージアムの展示は、ファッション雑誌での仕事や、浮世絵や絵画の影響など、ソール・ライターの作品の特徴をひも解く展示でした。今回は、前回とは異なる視点で構成されており、調査のなかで新たに発見されたカラーフィルムによるスライドの再現映像や、コンタクトプリントが展示され、妹のデボラや、パートナーのソームズ、というソール・ライターにとって大切な二人の女性を撮った写真を取り上げるなど、ソール・ライターの人生から彼の写真の魅力を知る展覧会となっています。
トークの最後に、おふたりにソール・ライターの人気の理由をお聞きしました。
大野さん
「人気がでると思ったから、としか言えないのですが、7年前に映画をみたときに、日本の人は絶対にこの世界観が好きだと感じました。彼がカラー写真を撮り始めたのが1950年代ということは昭和25年。昭和25年にカラーで、この構図。デジタルカメラのように、撮影した写真をすぐ見ることができないのに、こんな写真を撮っていたということ自体が驚きですし、そういった時の流れを感じさせない普遍性はすごいと思います。」
佐藤さん
「とくに若い人が興味を持ってくれていて、写真だけでなく、展覧会会場や図録に掲載したソール・ライターの言葉に敏感に反応しているようでした。将来に期待を持ちづらい時代で、若い人ほど不安を感じやすいと思いますが、ソールの写真は、身の回りに美しい場所や瞬間があることを教えてくれますし、彼の言葉は、“そんなに頑張らなくてよい”と哲学的な言葉をさりげなくかけてくれる。今の日本にソール・ライターの写真が求められているのではないでしょうか。ソールの写真は、『自分も写真を撮りたい』という気持ちにさせてくれる。インスタグラムで誰もが発信できる今、写真の世界の入り口としても、受け入れられているように思います。」
トークのあとは、参加者の皆さんと一緒にお昼ご飯を食べ、実際に展覧会も見に行きました。
次回の開催は、2月23日(日)。
再び大野留美さんをお迎えし、大野さんが買い付けたもうひとつの映画、『世界一美しい本を作る男〜シュタイデルとの旅〜』の上映会を行います。(詳細はこちら)
文/写真:館野 帆乃花