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飯沢耕太郎と写真集を読むvol.24 「トークと鑑賞で一日キャメロンDAY」講座レポ

飯沢耕太郎と写真集を読むvol.24 「トークと鑑賞で一日キャメロンDAY」講座レポ

 写真評論家の飯沢耕太郎さんのレクチャーにより写真の味わい方を学ぶことのできる大人気連続講座『写真集を読む』第24回が、7月17日(日)に開催されました。
 
今回の「写真集を読む」は、特別編!三菱一号館美術館の初の写真展であり、生誕200周年の国際巡回展で日本初の回顧展である『ジュリア・マーガレット・キャメロン展』の開催に併せ、「トークと鑑賞で一日キャメロンDAY」でした。飯沢さんの解説を聞き、おかどさんの美味しいごはんでお腹を満たしたあとは、実際に美術館に足を運んで作品を鑑賞する(ここでも飯沢さんの生音声ガイド付き!)という豪華なイベント。
 
 毎回講座のレポートを担当している館野さんがお休みでしたので、築地「ふげん社」の関根がピンチヒッターでレポートさせていただきます。しばらくのあいだお付き合いくださいませ。

ふげん社
http://fugensha.jp

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 みなさんは、「ジュリア・マーガレット・キャメロン」という写真家をご存知でしょうか?写真にお詳しい方でも、ピンとくる方は少ない気がします。わずか十余年あまりの短い活動にもかかわらず、写真表現に新たな地平を開いたという功績に比して、知名度が低く写真史に埋もれがちな存在です。

 キャメロン女史は、1815年にインドはカルカッタで、名門キャメロン家の三女として生まれました。48歳のとき、娘夫婦よりカメラと暗室道具一式を贈られ、彼女が長年抱いていた「美への憧れ」が、カメラを手にしたことで一気に開花します。キャメロンは身の回りの人物をモデルにし、幻想的な主題で肖像作品を生み出すことに情熱を傾けていきます。

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 後世になって高い評価を受ける所以となった、彼女の作品の特徴は大きく三つあります。
 まず一つが、写真に絵画的効果を適用した点です。キャメロンの作品は、当時の画壇であるラファエル前派の影響が色濃く見られます。これは、のちの19c末〜20c前半におこった、写真を芸術そしてみなし絵画的な表現を目指す「ピクトリアリズム」という写真表現運動の先駆けであったと言えます。
 
 モデルに、聖書の登場人物や「アーサー王」などの歴史的人物像を当てはめ、神話的でロマンチックな世界観を創出するキャメロン作品は、現代のコスプレと通じるものがある…と飯沢さん。若い女子はキャメロンに共感できるのでは?

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 二つめは、失敗をインスピレーションの種として新しい写真表現の可能性を常に探っていったことです。
 彼女の写真を見ると、ピンボケの写真や、指紋がついていたり、フィルムが破れていたり、一見「ミス」とみなされてしまう写真が多いように感じられます。しかし、彼女はミスをミスで終わらせず、それを多様な表現のひとつとして昇華しようとするたくましさがありました。
 
 キャメロンが使っていたカメラは、当時最先端の写真技術である湿板写真。極めてシャープな描写が可能になっていただけに、職業写真家たちの表現から大きく逸脱したキャメロン女史の作品は、非難が殺到したそうです。
 
 写真を詩集の挿絵として編集したり、写真の販売をしたり、アーティストインレジデンスの試みをしたりするなど、常に新しいことを追い求めていたキャメロン。大きなカメラを使いこなし、現代では想像もつかないほど途方もない手間をかけて写真を現像、プリントして、世間の批判を物ともせず独自の写真表現を切り開いていった様子を見るに、闊達でパワフルな女性像が眼に浮かびます。

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 最後は、被写体を見出し、その魅力を引き出すことに長けていた点です。
 彼女は、ヴィクトリア朝時代の著名な文人や芸術家、科学者をモデルとして登用するほか、親戚や小間使いなど身の回りの女性たちをモデルとして用います。頻繁にメインの役柄で作品に登場する、お気に入りのモデルが何人かおり、三菱一号館美術館の展示では、そのモデルたちにフォーカスをあてた解説がなされています。作品のなかの蠱惑的な女性たちは、キャメロンの鑑識眼が確かなものであったと感じさせます。

 彼女の写真には、「被写体をありのままに捉える」という彼女の信条を表す「フロム・ライフ」という文字がサインと共に添えられていることが多いです。写真に絵画的演出をほどこしていたキャメロン女史ですが、彼女が作り上げているものは、あくまでもありのままを写す「写真」であり、被写体のポテンシャルを生かして、イマジネーションの世界と現実を見事に融合させていたといえます。

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 飯沢さんのお話のあとは、丸の内にある三菱一号館美術館で開催中の「Life―写真に生命を吹き込んだ女性 ジュリア・マーガレット・キャメロン展」へ。飯沢さんの講義を聞いた後は、作品がより生き生きとして見える気がします。

会期は9月19日までです。
詳しくは下記に。
http://mimt.jp/cameron/
  

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記事を読んで興味を持たれた方は、『ジュリア・マーガレット・キャメロン展』に、ぜひ足を運んでみてください。貴重なヴィンテージプリントが一堂に会する大規模回顧展は、もしかしたら最初で最後かもしれません。モデルたちの表情、仕草、そしてプリントに残るキズや指紋などから200年前に想いを馳せて、写真に情熱を傾けエネルギッシュに生きた女性の息遣いを感じてみませんか。

(文/写真  関根 史)
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梅佳代さんと飯沢耕太郎さんのキャメロンを巡るトークの企画もあります。

日時  :8月2日 (火)時間19:00~20:30(予定)+質疑応答(開場18:30)
会場  :青山ブックセンター本店 大教室
参加費:1,944円(税込)

詳しくは下記に。
http://mimt.jp/blog/museum/?p=4566

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次回のご案内(8月はお休みです)

「飯沢耕太郎と写真集を読む vol.25」星野道夫と自然写真家たち

星野道夫さんが不慮の事故で亡くなってから、早いもので20年経ちました。8月〜10月には「没後20年特別展 星野道夫の旅」が松屋銀座を皮切りに全国各地で開催されます。1980〜90年代に発表された星野さんの写真は、「動物写真」という枠組みを超えて、国際的な広がりを持つ画期的な仕事でした。今回は星野さんの写真集を中心にして、同時代の自然写真家たちの多面的な活動をふり返ります。ぜひ足をお運びください。(飯沢耕太郎)

9月22日(祭・木)

10:00~11:30

2500円(三年番茶付き) 学生割引 1500円(三年番茶付き)

定員 15名

場所 めぐたま

* お申し込み megutamatokyo@gmail.com

*たまにメールが届かないことがあります。3日以内に返信がない場合、お手数ですが再度メールくださいませ。

*前日、当日のキャンセルは準備の都合がありますので、キャンセル料をいただきます。

「飯沢耕太郎と写真集を読むvol.23 ウォーカー・エヴァンズ『アメリカン・フォトグラフス』を読む」講座レポ

 

6月19日の日曜日、連続講座の「飯沢耕太郎と写真集を読む」が開催されました。

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「写真集食堂 めぐたま」はその名の通り、写真集と美味しいごはんを味わうことのできる場所です。

5000冊もの写真集がずらりと並ぶ店内。

めぐたまに訪れたことのある人なら、あまりの写真集の多さに「どれを読めばいいのだろう?」と悩んだこともあるのではないでしょうか。

また「行ってみたいけど写真に詳しくないし……」と思っている方もこのブログを読んでくださっているかもしれませんね。

もちろん自由に手に取り、自由に読んでもらいたいのですが、写真集は写真家のことや時代背景を知ることで、ぐっと味わい深いものになることもあります。この連続講座は、そんな「写真集の味わい方」を本の持ち主であり、写真評論家の飯沢さんがじっくりとお話をするイベントです。
(これまでの講座の様子はこちら

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23回目となる今回は、ウォーカー・エヴァンズの写真集『アメリカン・フォトグラフス』を取りあげました。

『アメリカン・フォトグラフス』は“1930年代のアメリカ”を写した一冊であり、世界ではじめて、言葉に頼ることなく“写真だけ”で物語を紡いだ一冊と言われています。

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1938年、まだニューヨーク近代美術館に写真部門がなかった頃、写真を新しい芸術のジャンルとして育てようと、キュレーターたちが初の個展に選んだ写真家がウォーカー・エヴァンズでした。

写真集『アメリカン・フォトグラフス』は同名の展覧会のカタログとして出されたものですが、展示内容とは写真の点数もセレクトも異なり、写真をみせる順番も全く違ったものに仕上がっています。

複数の作品が1つの空間に並ぶ展覧会と、ページを1枚1枚めくりながら作品と向き合う写真集。

展覧会と写真集では写真との出会い方がそれぞれ異なるため、本作はその違いを意識的に取り扱った写真集としても、のちの写真の歴史に大きな影響を与えました。

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ウォーカー・エヴァンズが捉えた1930年代のアメリカは、1929年のウォール街での株価大暴落に始まった不況が続く、とても暗い時代でした。

そんな時代を生きる人々や建物、そして都市をウォーカー・エヴァンズは大判カメラから小型カメラまで、さまざまなカメラを使い分け、まるで眼を取り替えるようにして撮り方を変えていくことで、写真家として、深いメッセージを織りこみながらも、1つの時代を客観的に写しています。写真からは貧しくともひたむきに生きる人々への敬意と、軍人や資本家といった支配層への嫌悪感が感じられます。

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飯沢さんは、『アメリカン・フォトグラフス』は写真を通じて「何か」を語り、「写真とは何か」を語ったはじめての写真集であり、はじめてにしてピークとも言える一冊と言っていました。

どれを手に取るか迷った時は、『アメリカン・フォトグラフス』を読んでみてはいかがでしょうか。

 

次回は19世紀のイギリスを代表する女性写真家、ジュリア・マーガレット・キャメロンがテーマです。めぐたまで写真集とランチを味わった後に、三菱一号館美術館で展覧会を鑑賞するというスペシャル企画になっています。

1人の写真家の写真集と展覧会が同時に楽しむことのできるこの機会、ぜひご参加ください。

 

【次回講座のごあんない】

飯沢耕太郎と写真集を読む 特別編
「トークと鑑賞で一日キャメロンDAY」

7月17日(日)
10時〜14時30分頃

参加費:4000円
レクチャーとお昼ごはんとキャメロン展(三菱一号館美術館)見学(チケットつき)

10時から11時30分……トーク(めぐたま)
11時30分から12時30分……ご飯(めぐたま)
12時30分から13時30分……移動(恵比寿〜東京)
13時30分から……三菱一号館美術館「ジュリア・マーガレット・キャメロン展」見学(東京・丸の内)

* お申し込み megutamatokyo@gmail.com

*見学後、ご希望方は三菱一号館1階のカフェ1894で飯沢さんとお茶しましょう(別料金です)。

*恵比寿〜東京駅の交通費は各自ご負担ください。

*たまにメールが届かないことがあります。3日以内に返信がない場合、お手数ですが再度メールくださいませ。

*前日、当日のキャンセルは準備の都合がありますので、キャンセル料をいただきます。

 

 

写真/文 館野帆乃花

 

写真集を読む 特別編 トークと鑑賞で一日キャメロンDAY

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写真/ジュリア・マーガレット・キャメロン
《ベアトリーチェ》 1866年
©Victoria and Albert Museum, London

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ジュリア・マーガレット・キャメロン
《五月祭》 1866年頃
©Victoria and Albert Museum, London

写真集を読む 特別編 トークと鑑賞で一日キャメロンDAY

ジュリア・マーガレット・キャメロン(1815〜79年)は、19世紀のイギリスを代表する女性写真家です。

ジュリア・マーガレット・キャメロン展のサイト
http://mimt.jp/cameron/

48歳の誕生日に娘夫婦からカメラを贈られ、「美への憧れ」を満たす手段として作品制作に没頭しました。
その大胆でロマンチックなポートレートや演出写真は、写真史に残る名作として高く評価されています。

今回の展示は、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館が所蔵しているヴィンテージ・プリント約100点によるもので、おそらく日本では二度とみることがで
きない貴重な作品ぞろいです。

今回は写真集食堂でのレクチャーとランチ後に、三菱一号館美術館で展覧会を鑑賞するというスペシャル企画!ぜひ足をお運びください。
飯沢耕太郎(写真評論家)

7月17日(日)

10時〜2時30分頃

4000円
レクチャーとお昼ごはんとキャメロン展(三菱一号館美術館)見学(チケットつき)

10時から11時30分 トーク めぐたま
11時30分から12時30分 時 ご飯 (めぐたま)
12時30分から1時30分 移動(恵比寿〜東京)
1時30分から 「ジュリア・マーガレット・キャメロン展」(三菱一号館美術館)見学 (東京・丸の内)

* お申し込み megutamatokyo@gmail.com

*見学後、ご希望方は三菱一号館1階のカフェ1894で飯沢さんとお茶しましょう。(別料金です)
*恵比寿〜東京駅の交通費は各自ご負担ください

*たまにメールが届かないことがあります。3日以内に返信がない場合、お手数ですが再度メールくださいませ。

*前日、当日のキャンセルは準備の都合がありますので、キャンセル料をいただきます。

「飯沢耕太郎と写真集を読むvol.22 ヌード写真集を読む」講座レポ

月に一度の連続講座「飯沢耕太郎と写真集を読む」。

この講座では、あるときは写真家を取り上げ、またあるときは1つの時代や1つのテーマにスポットをあてて、写真集を味わってきました。
(これまでの講座の様子はこちら

5月15日、22回目となる今回は「ヌード写真集」がテーマです。

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飯沢さんはヌードと写真について考えるときのキーワードは「ヌード」と「ネイキッド」の2つだとします。

美しいフォルム、物体としての「ヌード」
隠されていた存在が露わになる、出来事としての「ネイキッド」

今回は飯沢さんが選んだ古今東西のヌード写真集を、この2つの視点からみていくことで人の裸を撮ること、そして見ることについて考えていきます。

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1冊目に紹介したのは『明治裸体写真帖』(1970年)です。星野長一氏という江戸から明治のヌード写真を集めたコレクターのコレクションからなる一冊で、これらの写真は当時、外国人の旅行土産としてアンダーグラウンドで出回っていたと言われています。

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続いて飯沢さんが紹介したのが日本の明治時代と同時期にあたる、フランスを中心としたベル・エポック(良き時代)のヌード写真を集めた『Velvet Eden』(1979年)です。

『明治裸体写真帖』に収められた日本の初期のヌード写真はポーズや表情がぎこちなく、どこか痛々しいものも感じてしまうのに対して、『Velvet Eden』は華やかで解放的であり、芸術作品としての成熟度が高い写真ばかり。同じ時代でもまったく異なる「ヌード写真」があることが分かります。

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次に見ていったのはアーヴィング・ペンの『Dancer』(2001年)とロバート・メイプルソープの『Black Book』(1986年)です。どちらも、肉であり物体である裸体の「モノ」としての存在感とともに、写真家の被写体に向けられた執拗なまなざしを感じます。

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そして「モノ」としてのヌードではなく、自分と自分の周りの出来事として裸体(=ネイキッド)を写したのがナン・ゴールデンの『the Ballad of sexual Dependency(性的依存のバラッド)』(1986年)です。愛する人のカラダ、恋人に暴力をふるわれて負った傷など、切実さと痛みが伝わるような「コト」としての写真集であり、日本の写真家にも影響を与えた一冊です。

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日本のヌード写真集から飯沢さんが選んだのは、変わりゆく東京の街とヌード写真を同時に並べた荒木経惟『TOKYO NUDE』(1989年)と宮沢りえのヌード写真集として話題となった篠山紀信『Santa Fe』(1991年)の2冊でした。
美しさや若さの陰にある消え行く存在の儚さを感じさせるような「ヌード」であり「ネイキッド」でもあるカラダが写されています。

ほかにも講座ではポール・アウターブリッジ Jr.『Photographien』(1981年)やオランダのクリエイター集団Kesselskramerの写真集『Useful Photography#8』(2008年)も取りあげました。紹介できなかった写真集もあったので、続編もあるかもしれません。

今回は時代や国を超えて「ヌード写真集」というテーマでたくさんの写真集を見ていきましたが、次回は打って変わって、ウォーカー・エヴァンズの『アメリカン・フォトグラフス』(1938年)という1冊の写真集を1時間半じっくりと時間をかけて読み解いていきます。

【次回講座のごあんない】

飯沢耕太郎と写真集を読むvol.23
「ウォーカー・エヴァンズ『アメリカン・フォトグラフス』を読む」

6月19日(日)

10:00~11:30

2500円(三年番茶付き) 学生割引 1500円(三年番茶付き)

定員 15名

場所 めぐたま

* お申し込み megutamatokyo@gmail.com

*たまにメールが届かないことがあります。3日以内に返信がない場合、お手数ですが再度メールくださいませ。

*前日、当日のキャンセルは準備の都合がありますので、キャンセル料をいただきます。

*飯沢さんと一緒にランチを食べる方は事前にお申し込みいただけると嬉しいです。(休日ランチ1500円)

 

写真/文 館野帆乃花

 

 

「飯沢耕太郎と写真集を読むvol.21 肖像写真集を読む/ナダールとザンダーを中心に」講座レポ

 

「なぜ人は人を撮り、写真に残そうとするのか」

4月16日に開かれた、月に1度の連続講座「飯沢耕太郎と写真集を読む」は、そんな問いを出発点に“肖像写真”について見ていきました。
(これまでの講座の様子はこちら

めぐたまにずらりと並ぶ5000冊以上の写真集から、本の持ち主、飯沢さんが選んだのは19世紀にポートレート様式を確立したナダールと、20世紀にその時代に生きる人々の姿を残そうとしたアウグスト・ザンダーの2人の写真集です。

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写真が発明される以前は画家に自分の肖像画を描いてもらうことだけが、自分の姿を残す手段でした。お金も時間もかかる肖像画を描かせることができたのは王族や貴族など特権階級の人々に限られ、肖像画は権威の象徴であったと言えます。

19世紀になり、写真の登場によって新しい肖像画のスタイルが確立します。
飯沢さんはこの新しいスタイルを「牛丼」に例え、写真は肖像画に比べて「安い・早い・うまい(正確な描写)」と説明します。19世紀の産業革命とともに、写真館が次々と登場し、肖像写真は瞬く間に中流階級の人々の間で広まっていきました。

安価で手軽な肖像写真が普及すると、人々は写真に写る自分の姿に個性を求めるようになります。19世紀、古典的な肖像写真の様式を確立したのがフランスの写真家ナダールです。元々、風刺画家だったナダールは写真の時代を感じ、1854年にスタジオを開設。顔に表れる内面性やその人のもつ雰囲気をライティングやポーズによって引き出し、演出する方法を模索しました。

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ナダールの確立した様式は、肖像画のスタイルを踏襲するものであり、20世紀になると肖像写真に限らず、絵画的な写真を否定する動きが見られるようになります。

そのきっかけとなったのが第一次世界大戦であり、写真はありのままの現実を写すべきではないのかという問いが肖像写真にも向けられるようになりました。

その問いを問い続け、「20世紀の人間たち」を余すところなく写真に残そうとしたのがドイツの写真家、アウグスト・ザンダーです。

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彼は20世紀に生きる人々を職業や社会的な立場によって分類し、あらゆる立場の人々を対等に写真に収めようとします。ザンダーの写真はその人の身なりやその人のいる場所、表情、しぐさを捉え、1人の人生が1枚の写真によって語られています。

そしてその写真は職業や社会的な立場で分類されることによって、固有の物語ではなくなり、人間の有り様として私たちに「人間とは何か?」と語りかけてきます。

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ナダールとザンダー、19世紀と20世紀を代表する2人の写真家の肖像写真から、自分の姿を残したいという人々の変わらない欲求と、時代によって変化し広がっていく肖像写真の可能性を見ていきました。

次回のテーマは「ヌード写真」です。こちらも写真を通して人間の姿や欲求、なぜ写真を撮るのかを一緒に考えていく時間になりそうです。

次回もたくさんの方々のご参加、お待ちしております!

【次回講座のごあんない】

飯沢耕太郎と写真集を読むvol.22 「ヌード写真集を読む」

5月15日(日)

10:00~11:30

2500円(三年番茶付き) 学生割引 1500円(三年番茶付き)

定員 15名

場所 めぐたま

* お申し込み megutamatokyo@gmail.com

*たまにメールが届かないことがあります。3日以内に返信がない場合、お手数ですが再度メールくださいませ。

*前日、当日のキャンセルは準備の都合がありますので、キャンセル料をいただきます。

*飯沢さんと一緒にランチを食べる方は事前にお申し込みいただけると嬉しいです。(休日ランチ1500円)

 

写真/文 館野帆乃花

 

「飯沢耕太郎と写真集を読むvol.20 植田正治2」講座レポ

 

3月5日に開かれた、月に1度の連続講座「飯沢耕太郎と写真集を読む」。
20回目となる今回は、前回に続き植田正治さんを取りあげました。
(前回のレポートはこちら

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めぐたまの写真集の持ち主、飯沢さんのお話を聞きながら、植田正治の写真集をじっくりと見ていきます。
今回も、植田正治事務所の増谷寛さんをゲストにお迎えしました。

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植田正治の写真集で注目したいのが、本につけられた題名です。植田がつけた題名はどれも、心にすっと入ってくるような飾り気のない美しさがあります。

山陰地方の子ども達を写した『童暦(わらべごよみ)』(1971年)、雑誌『カメラ毎日』で1974年から1985年の12年間にわたり連載された「小さい伝記」は、地域に根付く風土と、そこに住まう人々の“何てことのない姿”に目を向けていく植田正治の姿勢が、その題名によく表されています。

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また、シリーズ作「風景の光景」(1970〜80年)やヨーロッパを訪れて撮った写真をまとめた『音のない記憶』(1974年)といった題名からは写真を撮ることを「写真する」と表現した植田の哲学的な一面も感じさせます。

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そしてその題名の元にまとめられた写真たちは、これもまた“何てことのない姿”のように見えて、植田ならではの、間のとり方、シルエットのあり方、瞬間の捉え方、が存在しています。それは、人や物の配置にこだわった演出と構図、現像時のさまざまな技法を駆使した写真加工によるものであり、飯沢さんが「1冊に1つのドラマがある」と言ったのもうなずけます。

2000年に亡くなる直前まで、意欲的に写真を撮り続けた植田正治。写真集の数々から、小さくてさりげない物にも目を凝らし、「写真する」喜びが伝わってきました。

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次回は、1人の写真家を取りあげるのではなく、「肖像写真集」をテーマにさまざまな写真集を紹介していきます。
来月もたくさんのご参加お待ちしております。

 

【次回講座のごあんない】

飯沢耕太郎と写真集を読むvol.21

肖像写真集を読む/ナダールとザンダーを中心に

4月16日(土)

10:00~11:30

2500円(三年番茶付き) 学生割引 1500円(三年番茶付き)

定員 15名

場所 めぐたま

* お申し込み megutamatokyo@gmail.com

*たまにメールが届かないことがあります。3日以内に返信がない場合、お手数ですが再度メールくださいませ。

*前日、当日のキャンセルは準備の都合がありますので、キャンセル料をいただきます。

*飯沢さんと一緒にランチを食べる方は事前にお申し込みいただけると嬉しいです。(休日ランチ1500円)

 

写真/文 館野帆乃花

飯沢耕太郎と写真集を読むvol.20 植田正治2

飯沢耕太郎と写真集を読むvol.20 植田正治2

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今回は「飯沢耕太郎と写真集を読む!」は植田正治さんの2回目の会を開催します。前回はフランスで刊行された写真集『shōji ueda』(Chose Commune)の話題を中心に、彼の前半生を辿りましたが、いよいよ『童暦』や『小さい伝記』など、70年代以降に刊行された名作をひも解いていきます。2000年の没後もまったく人気が衰えない、植田さんの創作の秘密に迫りたいと考えています。
今回も植田正治のお孫さんである植田正治事務所の増谷寛さんも参加予定。ぜひ足をお運びください。

3月5日(土)
10:00~11:30

ゲスト/増谷寛さん(植田正治事務所)

料金 2500円(三年番茶付き)

学生割引 1500円(三年番茶付き)

定員 15名

場所 めぐたま

* お申し込み megutamatokyo@gmail.com

*たまにメールが届かないことがあります。3日以内に返信がない場合、お手数ですが再度メールくださいませ。

*前日、当日のキャンセルは準備の都合がありますので、キャンセル料をいただきます。

*飯沢さんと一緒にランチを食べる方は事前にお申し込みいただけると嬉しいです。(休日ランチ1500円)

「飯沢耕太郎と写真集を読むvol.19 植田正治」講座レポ

 

1月17日の日曜日に今年最初の「飯沢耕太郎と写真集を読む」が開催されました。

今回で19回目となる「飯沢耕太郎と写真集を読む」は2014年2月にめぐたまがオープンして以来、たまにお休みしながらも月に1度開催してきた連続講座です。

この講座では、めぐたまの写真集の持ち主である飯沢さんが“写真集の味わい”についてお話していきます。(これまでの講座の様子はこちら

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今回は、『shōji ueda』がフランスの出版社Chose Communeから発表されたのを記念して、植田正治さんを取りあげました。

『shōji ueda』の日本での販売を担当している濱中敦史さん(twelevebooks)と植田正治のお孫さんである増谷寛さん(植田正治事務所)をゲストにお迎えし、お二方のお話も伺っていきます。

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植田正治は1913年、鳥取県西伯郡境町(現・境港市)に生まれます。
植田が写真に興味を持ち始めた1920〜1930年代は、アマチュア写真家たちが「芸術写真」や「ピクトリアリズム」と呼ばれる絵画的な構図とプリント技法をこらした写真を探求した時代から、「新興写真」と呼ばれる絵画から独立した、写真としての芸術表現を追求する時代へと移り変わる瞬間でもありました。

芸術写真を追い求めていた日本に黒船のごとくやって来た「ドイツ国際移動写真展」(1931年)は時代の移り変わりを象徴する展覧会でした。

植田は展覧会は見ていませんが、父に買ってもらった『MODERN PHOTOGRAPHY』(1931年)で欧米の写真に触れ、この出会いは当時18歳だった植田が本格的に写真に取り組むきっかけになりました。

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植田正治が今でも一目置かれる存在であるのは、新興写真に影響を受けながらも芸術写真を追求し続けたところにあります。
砂丘を舞台に家族や子ども達を写した「少女四態」や「パパとママとコドモたち」は植田の代表作品です。

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鳥取の平坦な土地や低い雲が、植田独特の空間意識につながっていると、飯沢さんやお孫さんで植田正治をよく知る増谷さんが解説してくれました。

空間的なスケール感と構図の面白さは、アメリカやヨーロッパでも「Ueda-cho(植田調)」という言葉が浸透するほど。
この度、フランスの出版社で彼の写真集が刊行されたのも、海外での評価の高さを示しています。

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日本での販売を担当している濱中さんから、フランスの出版社Chose Communeが、これまでの植田正治のイメージに縛られない自由な視点で写真をセレクトしていることや、これまで発表されていなかった写真も収められていることも聞くことができました。

飯沢さんも「『こんなのあったんだ』という驚きがありました。植田正治というと日本では砂丘の印象が強いですがこの本には砂丘を舞台にした写真がほとんどない。フランスと日本の見方の違いというか、誰も知らなかった植田の一面が見られますね」とこれまでの植田正治の写真集の中でも画期的な一冊だと評価しています。

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今回は、植田正治のプロフィールと新刊『shōji ueda』について、じっくりとお話を聞くことができました。

次回は紹介しきれなかった写真集を1つ1つ見ながら、植田正治の作品を読み解いていきます。

たくさんの方にご参加いただきキャンセル待ちのお客さまもいらしたほど、人気の写真家さんなのでご予約はお早めに。

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【次回講座のごあんない】

飯沢耕太郎と写真集を読むvol.20 植田正治2

2016年3月5日(土)

10:00~11:30

料金 2500円(三年番茶付き)

学生割引 1500円(三年番茶付き)

定員 20名

場所 めぐたま

* お申し込み megutamatokyo@gmail.com

*たまにメールが届かないことがあります。3日以内に返信がない場合、お手数ですが再度メールくださいませ。

*前日、当日のキャンセルは準備の都合がありますので、キャンセル料をいただきます。キャンセルまちのお客さまもいらっしゃるので、キャンセルの場合は必ずご連絡ください。

*講座のあと飯沢さんと一緒にランチを召し上がることもできます。(休日ランチ1500円)

 

写真/文 館野帆乃花

「飯沢耕太郎と写真集を読むvol.18 石内都」講座レポ

 

5000冊もの写真集からお気に入りを手にとり、美味しいごはんと写真集を味わう。
めぐたまは「写真の楽しさをおいしく味わえる」場所です。

11月22日の日曜日、今年最後の「飯沢耕太郎と写真集を読む」が開催されました。
写真集の持ち主である飯沢さんが“写真集の味わい”についてお話しするこの講座も、今回で18回目になります。(これまでの講座の様子はこちら

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この日取りあげた写真家は、石内都さん。
1947年に群馬県で生まれ、1979年には女性で初めて木村伊兵衛写真賞を受賞しています。
今となっては女性の写真家は珍しくありませんが、被写体に対して、時に強い感情をぶつけ、時には大きな受容性を持って捉える彼女は、男ばかりの世界で一目置かれる存在でした。

美大生の頃、染色をしていた彼女は「私にもやれそう」と我流で暗室作業を習得したそうです。
染料を使って布を染めていくように、薬品を使って印画紙に像を定着させていくことに魅せられた初期の作品は、強いコントラストとくっきりと浮かび上がる粒子が特徴的です。

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「石内都」は本名ではなく、母の旧姓。
母の名前で活動しながらもその関係は複雑で、母とはなかなか心が通い合わず、1979年に刊行された『絶唱・横須賀ストーリー』は、幼少期に過ごした横須賀を、強い主観的な感情をぶつけるように写しています。

一方で1981年の『Endless Night 2001 連夜の街―石内都写真集』では、日本全国のかつて遊郭として賑わった街をめぐり、寂れた建物のディテールを丁寧にそして客観的に捉えました。

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主観と客観。対極的な『絶唱・横須賀ストーリー』と『Endless Night 2001 連夜の街』に共通するのは、過去の痕跡を捉えていく姿勢。
それは、『1・9・4・7』(1990年)へと通じていきます。
『1・9・4・7』は彼女と同じ「1947年生まれの女性」の手と足をクローズアップで捉えた写真集です。
一人一人の皮膚に刻まれた歴史を受け止めるように、1枚1枚を丁寧に写しています。

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その後の写真集『1906・to the skin』(1994年)『さわる―Chromosome XY』(1995年)では人の皮膚に関心を強めますが、新たな転機となったのが『Mother’s』(2002年)でした。
彼女は、やっとわだかまりが解けてきた頃に亡くなってしまった母親の下着や口紅、靴などの遺品を「残された皮膚」として、写真に収めていきました。
『Mother’s』の写真は2005年のヴェネツィア・ビエンナーレで展示され、国際的な評価が高まり、石内都は新たな飛躍を遂げます。

その後、広島市現代美術館の依頼で、原爆の被爆者の衣服を撮影した『ひろしま』(2008年)でも『Mother’s』のように、布の物質的な存在感を超え、かつていた、今はもういない存在のただよう気配を感じさせます。

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最近では、メキシコの女性画家フリー・ダカーロの遺品をめぐる旅がドキュメンタリー映画になるなど、ますます注目を集める石内都。
1つの写真集が次の作品へとつながっていき、その跡を追っていくことで石内さんの写真をより深く味わえることが、飯沢さんのお話から伝わってきました。

次回は来年、1月17日(日)を予定しております。
テーマは植田正治について。
来年もたくさんのご参加をお待ちしております。

【次回講座のごあんない】
飯沢耕太郎と写真集を読むvol.19 植田正治
2016年1月17日(日)
10:00~11:30
料金 2500円(三年番茶付き)
学生割引 1500円(三年番茶付き)
定員 15名
場所 めぐたま
* お申し込み megutamatokyo@gmail.com
*たまにメールが届かないことがあります。3日以内に返信がない場合、お手数ですが再度メールくださいませ。
*前日、当日のキャンセルは準備の都合がありますので、キャンセル料をいただきます。キャンセルまちのお客様もいるので、キャンセルの場合は必ずご連絡ください。

*講座のあと飯沢さんと一緒にランチを召し上がることもできます。(休日ランチ1500円)

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写真/文 館野帆乃花

「飯沢耕太郎と写真集を読むvol.17 中平卓馬」講座レポ

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月に一度の連続講座「飯沢耕太郎と写真集を読む」。
講座では写真評論家の飯沢さんの解説を聞きながら貴重な写真集をみる事ができます。
今回はいつも以上にたくさんの方にご参加いただきました。
(これまでの講座の様子はこちら

今回のテーマは、先月帰らぬ人となった写真家・中平卓馬について。
森山大道と同じ1938年生まれの日本を代表する写真家であり『なぜ、植物図鑑か―中平卓馬映像論集』(1980年)などの著書を残した言葉の人でした。

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60年安保の激動の時代に大学生活送った中平は、卒業後、雑誌『現代の眼』の編集者となります。編集者として寺山修司と東松照明とともに仕事をした彼は、裏方ではなく表現する側に惹かれ「詩人になるか、写真家になるか」の二択の末、写真家の道を選びました。

1968〜1969年には『PROVOKE(プロヴォーク)』に参加。雑誌は3号で休刊されましたが、多木浩二、中平卓馬、高梨豊、岡田隆彦、森山大道といったその後の日本写真を担う人々の同人誌として、今も尚語り継がれています。
モノクロで粒子が粗くピントの定まらない「アレ・ブレ・ボケ」といわれる写真表現は不穏な時代状況を捉え、1970年に発表された『来るべき言葉のために』はまだ言葉にもならぬ身体に刻みこまれた呻き声のように、観るものにその時代の空気を伝えています。

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1971年にはパリ青年ビエンナーレに出展します。その日に目にしたものを写真に残し、現像後、印画紙も乾かぬうちに展示していく「サーキュレーション・日付・場所・行為」というパフォーマンスを行いました。
この頃から中平の写真論は叙情性を一切排除し、そこにあるものをただ写す「写真=記録」の行為であるべきとの考えを強めていきました。
1980年の映像論集『なぜ植物図鑑か』では、自身の「アレ・ブレ・ボケ」の写真を否定し、目の前の物を一切の主観なしに物として捉えることこそ写真の役割であると主張します。

しかし、自身が確立した思想と写真を撮るという身体表現の溝に苦しみ、言葉と写真は乖離していきました。その溝を埋めるように、酒とクスリに溺れていき1977年、遂に急性アルコール中毒によって記憶を失ってしまいます。

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その後、徐々に体力も記憶も回復し『新たなる凝視』(1983年)、『Adieu à X』(1989年)の2冊の写真集を発表します。2003年には横浜美術館で回顧展を開催。展覧会カタログとして『原点復帰——横浜』を編みました。一度、記憶を失った中平が撮る写真は、カラーでピントがしっかりとあった「アレ・ブレ・ボケ」とは対極の写真。初めてカメラを手にしたかのような瑞々しさを感じさせるその写真は、かつての中平が確立できなかった「植物図鑑」を成し得たかのようにも見えます。

飯沢さんは中平卓馬を「写真の全てを体験した、写真の世界の守護天使のような人」と故人への思いを語りました。

次回は、11月22日(日)を予定しています。
来月のテーマについては、後日こちらのブログで告知があるかと思いますので、皆さま奮ってご参加ください。

写真/文 館野 帆乃花