写真集を読む 」カテゴリーアーカイブ

飯沢耕太郎と写真集を読むvol.29 「一日『ソール・ライター』DAY」講座レポート

 

DSC_0933

2017年4月29日に写真集食堂めぐたまにて開催された「飯沢耕太郎と写真集を読む」。

今回はBunkamura ザ・ミュージアムで開催中の展覧会「ニューヨークが生んだ伝説 写真家ソール・ライター展」に関連して、ソール・ライターの写真世界を覗いていきます。ゲストに、展覧会のキュレーションを担当したポリーヌ・ヴェルマールさん(ニューヨーク国際写真センター)と、コーディネーターの佐藤正子さん(株式会社コンタクト)のお二人をお迎えしました。

DSC_0981

左から飯沢さん、ヴェルマールさん、佐藤さん

イベントが行われた4月29日は展覧会の初日。トークのあとは、参加者の皆さんとソール・ライター展覧会限定メニュー《ファラフェル プレート》でランチをして、展覧会を見に行きました。

DSC_1007

ソール・ライター展限定メニュー《ファラフェル プレート》

DSC_1010

Bunkamura ザ・ミュージアム入り口にて

ウェブマガジンmineでは、2時間にわたるトークイベントの内容をたっぷりご紹介していきます。

記事はこちら→連続講座「飯沢耕太郎と写真集を読む」 一日『ソール・ライター』DAY

【目次】
◆無名の写真家ソール・ライター
◆日本で展覧会が開催されるまで
◆ソール・ライターと日本
◆ソール・ライターの人生観
◆絵画作品、ヌード写真の魅力
◆ロバート・フランクとのつながり

 

(2017年4月29日開催・写真/文 館野 帆乃花)

「飯沢耕太郎と写真集を読む 番外篇 『植田正治作品集』を巡って」講座レポ

 

2月12日に、月に一度の連続講座「飯沢耕太郎と写真集を読む」を開催しました。

「写真集を読む」では毎回、テーマに合わせて写真評論家の飯沢さんが“写真の味わい”についてお話しています。(これまでの講座の様子はこちら

DSC_0749

DSC_0779

今回は、植田正治の決定版『植田正治作品集』(河出書房新社)の刊行記念として、飯沢さんと共に監修をつとめた写真史家・金子隆一さんに来ていただきました。

DSC_0780

2000年に亡くなってから17年が経ってもなお、多くの人を魅了する植田正治の写真世界。

この度の作品集は、本人が生前に発表した雑誌の初出をたどり、プリントやフィルムが無い写真に関しては、雑誌をスキャニングしています。そのため、展覧会やこれまで刊行されてきた写真集では見ることができなかった作品がたくさん収められているのが特徴です。

DSC_0758

モノクロのイメージが強く、カラー写真は80年代から晩年にかけての作品という印象が強い植田正治さんですが、雑誌をたどるなかで70年代からすでにカラー写真に力を入れて取り組んでいたことがわかったそうです。

飯沢さんは「シンプルな印象がありながらも、カラーだからこそ表現できる世界があって、単純化することで世界を浮かびあがらせていくような感じがします。」と、初期のカラー写真には新鮮なショックがあったことを話してくれました。

DSC_0768

大の甘党だった植田正治さん。トークの合間のおやつタイムでは、植田正治さんの妻、紀枝さんのレシピから「淡雪」というお菓子をご用意し、皆さんでいただきました。

DSC_0795

イベントも後半になると、植田さんとの思い出話も。

写真技術や戦前の写真について、多くのことを教わったという金子さんからは「植田先生が話すことの全ては『写真っていいよね』ということにつながっていました。」と植田さんとのエピソードもお話していただきました。

DSC_0754

トークのあとには「植田正治が愛した食卓」と題して、ご飯会も行いました。ご飯会のようすは「植田正治が愛した食卓」レポートをご覧ください。

金子さん、植田正治事務所の増谷さん、そしてご参加いただいた皆さま、ありがとうございました!

【お知らせ】

今年の「写真集を読む」からロングバージョンの記事を有料配信しています。
飯沢さんと金子さんのトークの全容はこちらをご覧ください!

連続講座「飯沢耕太郎と写真集を読む」(ウェブマガジンmine)
※上記サイトにアクセスし、有料版にお進みください

1万字を超えるボリューム満点の内容で、作品集をお持ちの方はもちろんのこと、まだ本を見ていない方にも分かりやすく、植田正治の写真世界のおもしろさをたっぷり解説しています。

●目次●
1. 『植田正治作品集』 ―雑誌の初出ということ
2.  評価の根拠 ―時代の移り変わり
3.  カラー作品をひも解く
4.  <風景の光景>の再評価

 

写真/文 館野帆乃花

飯沢耕太郎と写真集を読むvol.28 ラテンアメリカ写真を語りて、世界を震撼せしめよ!」講座レポ

 

1月29日の日曜日に2017年最初の「飯沢耕太郎と写真集を読む」を開催しました。(これまでの講座の様子はこちら

この日のゲストは「カーニバル評論家/ラテン系写真家」という肩書きをもち、ラテンアメリカ写真にも詳しい白根 全さんです。白根さんは30年以上にわたってラテンアメリカ全域の国々を巡り、写真界の状況を眺めつつ写真集を集めてきたそうです。

今回は白根さんに写真集をたくさんお持ちいただき、おふたりのお話を聞きながら、貴重な本を順番に回して見ていきました。

DSC_0682

「ラテンアメリカ写真」と聞いてもどんな写真家がいるのか、ピンと来る人は少ないのではないでしょうか。飯沢さんも「ヨーロッパやアメリカの写真と日本の関係に比べると、ラテンアメリカと日本の写真の関係はかなり細い」と一言。

しかし、昨年は世田谷美術館でメキシコの写真家アルバレス・ブラボの展覧会が行われ、めぐたまのすぐ近くにあるペルー大使館でもペルーの先住民写真家、マルティン・チャンビの写真が白根さんの企画で紹介されました。

日系移民の写真家、大原治雄(ブラジル)や屋須弘平(グアテマラ)の展覧会も昨年開催されており、ラテンアメリカ写真への関心が高まりつつあります。

DSC_0718

ラテンアメリカ写真を見ていくときのキーワードになるのは「マジックリアリズム」です。それは現実を正確に写しながらも、相反する非現実的な、異世界のものとしか思えないものが映り込んでくるようなあり方。

マルティン・チャンビが撮った結婚式の記念写真や、身長が2メートル以上もある巨人のポートレートはまさにマジックリアリズムの世界であり、白根さんは巨人の写真を初めてみたとき、金縛りになったそうです。

DSC_0678

また、ラテンアメリカの世界に魅せられ、アンリ・カルティエ=ブレッソンやウォーカー・エバンズ、ロバート・フランクといった大写真家たちが写真家としてのスタートにラテンアメリカを撮っており、それが自身のスタイルを確立するきっかけとなっています。

白根さんには写真集だけでなく、オリジナルプリントも持ってきていただきました。キューバの写真家ロベルト・サラスが撮った、ヘミングウェイとカストロの貴重な2ショットには、参加者のみなさんもびっくり。

DSC_0701

昨年、世田谷美術館で展覧会が開かれたアルバレス・ブラボやその弟子の女性写真家グラシエラ・イトゥルビデらが活躍したメキシコには、フォトテカという国立の写真センターがあり、その所蔵点数は10万点を超えているそうです。メキシコ現代写真の代表格ペドロ・メイヤーも大きな美術館を建設しています。他にもブラジルのモレイラ・サーレス財団やサンパウロ美術館のアーカイブ・プロジェクトなど各国が写真文化の振興にとても力を入れています。

まだまだ日本では馴染みの薄いラテンアメリカ写真ですが、今回のイベントにはいつも以上にたくさんのお客さんに参加いただきました。飯沢さんも「昨年から今年にかけての状況の変化というのは大きいのではないでしょうか。これから先、何か変わってくる気がします。」とラテンアメリカ写真への興味をより一層強めていました。

白根さんも「これまで溜め込みっぱなしだったので、これからはどんどん吐き出そうと思っています。」と意気込みを語ってくださいました。

 

【お知らせ】

今回から、講座の内容が詳しく分かるロングバージョンの記事を有料配信しています!

連続講座「飯沢耕太郎と写真集を読む」(ウェブマガジンmine)
※上記サイトにアクセスし、有料版にお進みください

飯沢さんと白根さんの対談のようすをたっぷりご紹介。
ここでは紹介しきれなかった写真集やラテンアメリカ各国の状況、そしておふたりの辛口コメントも余すところなくお伝えします!

イベントに来られなかった方はもちろん、ご参加いただいた方もぜひお読みください!

 

写真/文 館野帆乃花

飯沢耕太郎と写真集を読むvol.27 アメリカと日本・『二つの眼』を持つ写真家、石元泰博を読む」講座レポ

 

11月13日の日曜日、今年最後の「飯沢耕太郎と写真集を読む」が開催されました。

「写真集を読む」では、1人の写真家を取り上げたり、テーマを決めて写真集を読んだりと、毎月さまざまな切り口で写真集を味わっています。
1冊1冊の味わい方を教えてくれるのは、本の持ち主であり、写真評論家の飯沢さんです。(これまでの講座の様子はこちら

dsc_0551

今回のテーマは「アメリカと日本・『二つの眼』を持つ写真家、石元泰博を読む」。
「二つの眼」をキーワードに彼の生涯と写真集をたどっていきます。
特別ゲストとして、石元泰博の遺作を保存・管理している高知県立美術館 石元泰博フォトセンターの学芸員、影山千夏さんにお越しいただきました。

dsc_0559

1921年、アメリカのサンフランシスコにて日系移民の両親のもとに生まれ、幼少期を日本で過ごした石元は、1939年、17歳で単身アメリカに渡ります。
戦時中、日系人収容所にて写真に興味を持ち、1948年にシカゴのインスティチュート・オブ・デザインに入学。ドイツのバウハウスの伝統を受け継ぐこの場所で、石元はモダニズム写真の基礎を学び、造形感覚を養っていきます。

dsc_0545

その後、1953年から1958年までの約5年間は日本へ。シカゴと日本の写真を収めた『ある日ある所』(1958年)と京都の桂離宮を撮った『桂』(1960年)を発表します。
石元泰博の来日は日本写真にとって「黒船」でした。シカゴで身につけた造形的な美意識と、彼の血に流れる日本人としての美的感覚がこの2冊から見えてきます。

dsc_0548

日本での経験を踏まえ、石元は再びシカゴに渡ります。3年のあいだに撮りためた写真をまとめたのが石元泰博の代表作『シカゴ、シカゴ』(1969年)です。
飯沢さんはこの本について「一つの都市のあり方を多元的に見直し、構築した写真による都市論」と語りました。そしてその構築の仕方には迷いや揺らぎがなく、自信に満ちています。

他にも石元は『伝真言院両界曼荼羅』(1988年)、『色とかたち』(2003年)などジャンルにとらわれない作品を発表していきます。

dsc_0557

モダニズム写真を基礎に“かたち”を捉えてきた彼が晩年になって打ち込んだのは形のないもの、形が変わるものを撮ることでした。その取り組みをまとめたのが『刻(とき)』(2004年)という写真集です。
『刻』に収められているのは、形のない雲、潰れた空き缶、東京の水っぽい雪についた足跡など、シャッターを切った後に消えてなくなってしまうものばかりです。影山さんは彼から「形のないものを撮りたかった」と聞いたと話してくださりました。

dsc_0558

その後に発表した『シブヤ、シブヤ』(2007年)は言うまでもなく『シカゴ、シカゴ』のタイトルにかけられており、80代になってもなお、新しいチャレンジを続ける意欲に溢れています。
2012年に亡くなった石元泰博ですが、2009年には病気で片方の目にアメリカ人の角膜を移植をしており、比喩ではなく本当にアメリカと日本、「二つの眼」を手に入れた写真家でした。
影山さんは「頑固であり、しなやかな人」と生前の思い出をお話ししてくれました。高知県立美術館には3万4千点を超えるプリントと15万シートものネガが所蔵されているとのこと。2021年の生誕100周年に向けて石元泰博の作品を広めていきたいと仰っていました。

dsc_0568

次回の「写真集を読む」は来年の1月になります。
ラテン・アメリカの写真集、植田正治さんなどが候補に挙がっています。
イベントの詳細は後日、当サイトやFacebookにてお知らせいたします。お楽しみに。

 

写真/文 館野帆乃花

飯沢耕太郎と写真集を読むvol.26 ロバート・フランク『アメリカ人』を全バージョンで読む」講座レポ

 

月に一度の恒例イベント「飯沢耕太郎と写真集を読む」が10月16日の日曜日に開催されました。(これまでの講座の様子はこちら

めぐたまの5000冊を超える写真集の持ち主、写真評論家の飯沢さんの解説とともに、写真集を味わう。今回のテーマは「ロバート・フランク『アメリカ人』を全バージョンで読む」です。
日本有数の写真集コレクターとして知られる写真史家の金子隆一さんをお迎えし、金子さん所蔵の『アメリカ人』の各バージョンを見比べていきます。

dsc_0508

飯沢さんと金子さんは40年来の付き合いとのこと。貴重な本をじっくりと読むことができるだけでも贅沢な時間ですが、おふたりの豊富な知識と写真集に向けられた想いがぶつかることで、お互いがお互いの言葉を引き出していくようでした。

dsc_0505

『アメリカ人』は1958年から2008年までの50年のあいだに8度も出版されています。有名な写真集が覆刻版や改訂版として再版されることはありますが、本作はそのどちらでもなく、基本的には同じ写真を使いながらも、その都度1冊の写真集『アメリカ人』として刊行されている珍しい写真集です。

1954年、アメリカの写真を撮ることを条件にグッケンハイム奨学金をもらい、ロバート・フランクは2年間アメリカを旅します。

戦後のアメリカ、その華やかな時代に潜む影を捉えたスナップ写真は、当時のアメリカでは受け入れられず、1958年の初版はフランスで『Les Américains』として出版されました。

被写体は星条旗、ジュークボックス、自動車といったアメリカ的なアイコンが多く、なぜ星条旗をたくさん撮るのかという質問に対し、ロバート・フランクは「星条旗がたくさんあるから」と答えたそうです。スイスで生まれ、憧れの地で成功を夢見た若者が見たアメリカ。ふとよぎる影にカメラを向けた冷ややかな目線を感じます。

dsc_0520

1959年にはアメリカ版『The Americans』も刊行され、その後も版を重ねるごとに装丁や判型、印刷やトリミングが少しずつ変化をしています。各バージョンを並べて見てみると、それぞれの違いがはっきり分かります。

「現代写真のバイブル」と言われる『アメリカ人』ですが、1枚1枚の写真がのちの写真家に与えた影響はもちろんのこと、見開きに1点のみ写真を置くその作り方は、写真集の典型となりました。そのスタイルは戦前のアメリカを写したウォーカー・エヴァンズの『アメリカン・フォトグラフス』の踏襲であり、金子さんはロバート・フランクが引き継いだことによって、「点が線になった」と語ります。そして、ロバート・フランクが描いた線は関口正夫・牛腸茂雄の『日々』(1971年)、高梨豊の『東京人 1978-1983』(1983年)など、さまざまな写真家たちによってつながれています。

dsc_0516

おふたりのお話を聞いていると一時間半の講座もあっという間に過ぎていきました。講座のあとは皆さんでランチ。めぐたまの美味しいご飯を食べながら、講座で話し切れなかったエピソードなどもお話してくださりました。

次回、11月は『シカゴ、シカゴ』(1964年)などで知られる写真家・石元泰博さんを取りあげます。特別ゲストとして、遺作を保存・管理している高知県立美術館石元泰博フォトセンターの学芸員、影山千夏さんにもお越しいただく予定です。

みなさんのご参加をお待ちしております。

 

【次回講座のごあんない】

飯沢耕太郎と写真集を読むvol.27

「アメリカと日本・「二つの眼」を持つ写真家、石元泰博を読む」

11月13日(日)

10:00~11:30

2500円(三年番茶付き) 学生割引 1500円(三年番茶付き)

定員 15名

場所 めぐたま

* お申し込み megutamatokyo@gmail.com

*たまにメールが届かないことがあります。3日以内に返信がない場合、お手数ですが再度メールくださいませ。

*前日、当日のキャンセルは準備の都合がありますので、キャンセル料をいただきます。

*飯沢さんと一緒にランチを食べる方は事前にお申し込みいただけると嬉しいです。(休日ランチ1500円)

 

写真/文 館野帆乃花